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症例紹介

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犬アトピー性皮膚炎の新しい治療薬『ゼンレリア』

はじめに

こんにちは!むらい動物病院です!
昨年10月に犬アトピー性皮膚炎の治療薬の新しい選択肢として『ゼンレリア』(一般名:イルノシチニブ)というお薬が登場したことをご存知でしょうか?
今回はその治療薬についてご紹介したいと思います。

犬アトピー性皮膚炎とは?

犬アトピー性皮膚炎は遺伝的素因を背景とした慢性的な痒みと皮膚炎を特徴とする皮膚疾患です。
皮膚には、紫外線やアレルゲン、菌などの様々な刺激から犬の体を守る役割に加えて、内側からの潤いをキープする役割もあります(皮膚のバリア機能)。

犬アトピー性皮膚炎はこのバリア機能が弱いために容易にアレルゲンが侵入し、過剰な免疫応答が起こった結果、痒みが発生します。痒みによって体を掻いたり舐めたりしてしまうと、さらなるバリア機能異常が起こり、悪循環が生まれます。
若いうちに発症することが多く、足先や脇、足の付け根のほか、目や口の周りなどによく見られます。
また、日本では、柴犬フレンチ・ブルドッグシー・ズーなどの犬種でよく見られることが知られています。もちろん、これ以外の犬種でもアトピー性皮膚炎にならないわけではありません。

犬アトピー性皮膚炎は体質が関係しているため、基本的に治ることはありません。ワンちゃんとオーナー様の生活を考えた上で、①アレルゲンの回避、②悪化する原因の除去、③痒み(炎症)の管理、④スキンケアを軸として様々な治療法を組み合わせて治療します。

ゼンレリアとは?

ゼンレリア(一般名:イルノシチニブ)は昨年10月に承認された犬アトピー性皮膚炎に伴う症状に対する治療薬です。アトピー性皮膚炎だけではなく、食物アレルギーやノミアレルギー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎でも効果を示すことがわかっています。
この薬は1日1回の経口投与でよく、食事のタイミングに関係なく投与することができます。ワンちゃんにとってもオーナー様にとっても負担が軽減されるのも特徴の1つです。

ゼンレリアはお薬の種類としては、JAK阻害薬というお薬に分類されます。
痒みというものは、外部からの刺激などによってリンパ球(白血球の一種)から分泌された炎症の原因物質(炎症性サイトカイン)が細胞表面に結合し、細胞内に痒みの信号を伝達することで引き起こされます。この痒みの信号の伝達に関与するのがJAK(ヤヌスキナーゼ)と呼ばれる酵素です。
JAK阻害薬はこのJAKの信号伝達を阻害することで痒みの発生を止めるお薬になります

JAKは4種類あり、ゼンレリアはこの4種類全てを非選択的に阻害します
ちなみにアトピー性皮膚炎の治療薬として聞くことが多いアポキルというお薬もJAK阻害薬の1つで、4種類のうちの1つを選択的に阻害するお薬になります。

ゼンレリアを使用するときの注意点

ゼンレリアは以下のワンちゃんには使用することができません。

・12ヶ月齢未満および体重3.0kg未満のワンちゃん

・重度の感染症に罹っているワンちゃん

・妊娠中、授乳中または繁殖を予定しているワンちゃん(安全性未確認)

またワクチン接種をするワンちゃんも注意が必要です
JAKを介した炎症性サイトカインのシグナル伝達は免疫機能と密接に関わっており、ゼンレリアはその免疫機能を抑制することで痒みを抑えます。一方、ワクチンはわざと免疫機能を活性化させて抗体を作ることで病気を予防します。
そのためゼンレリアの投与期間中にワクチンを接種すると十分な効果が得られない場合があります
アメリカでは、FDA(米国食品医薬品局)から「ワクチン接種の少なくとも28日前〜3ヶ月前にはゼンレリアの投与を中止し、接種後28日間は投与するべきではない。」といった警告もされています。

しかし、日本におけるゼンレリアの添付文書には、ワクチン接種への大きな影響は確認されていないとの記載があり、獣医師の判断とオーナー様の同意があればワクチン接種と同時にゼンレリアを投与することは問題ありません。
今後狂犬病ワクチンや混合ワクチンを接種するご予定で気になる方がいればお気軽にご相談ください。

さいごに

これまで犬アトピー性皮膚炎の治療薬にはアポキルサイトポイントといったお薬が使われることが多かったですが、ゼンレリアの登場によって治療の選択肢が増えました。
アポキルやサイトポイントがあまり効かないワンちゃんでもゼンレリアが効果を示すことがあります。
当院では、ワンちゃんの状態やお薬の効果などを見ながら、効果的な治療法をご提案していきます。

他のお薬との違いや効果の違いが気になる方や現在の治療をこのまま続けていくべきかお悩みの方はお気軽にご相談ください。