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症例紹介

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ワンちゃん・ネコちゃんの糖尿病について②

はじめに

こんにちは!むらい動物病院です!
前回の投稿では、血糖値モニタリングシステム『FreeStyle リブレ2』についてご紹介しました。
今回は昨年9月より新たに販売された猫の糖尿病治療薬についてご紹介します。

猫の糖尿病治療薬『センベルゴ』とは

センベルゴ(一般名:ベラグリフロジン)は、2024年3月に承認され、9月から販売が開始した猫専用の糖尿病治療薬です。専門用語だとSGLT2阻害薬という薬に分類されます。
この薬は、1日1回の経口投与(少量の食事と一緒でもOK)になります。インスリンのように注射を毎日する必要がなく、飼い主様の負担が軽減される点も魅力の1つです。

では、この薬はどのようにしてネコちゃんの糖尿病を治療してくれるのでしょうか?
(ここから少し難しい話になるので、読み飛ばしてもらっても大丈夫です。)

犬や猫などの全ての動物はグルコース(糖)をエネルギー源にしています。食べ物などから吸収されたグルコースは細胞の中に運ばれ、必要に応じて細胞と血液中を行き来します。
健康な猫では、血糖値はインスリンをはじめとする数種のホルモンによって正常範囲内に調整されていますが、糖尿病の猫では、インスリンの働きが効きにくくなってしまい(インスリン抵抗性)、血糖値が異常に上昇してしまいます。

一方で、動物の尿は腎臓に運ばれた血液から作られます。この時、体に必要な成分まで尿にされてしまうため、尿が腎臓から膀胱に運ばれる間にそれらを血液中に再吸収する仕組みが動物には備わっています。
グルコースもそういった成分の1つで、猫ではSGLT1SGLT2という通路を通って再吸収されます。実はこの2つの通路の性能はSGLT2の方が優秀で、尿に含まれたグルコースの90%をSGLT2が再吸収すると言われています。

つまり、センベルゴはこのSGLT2を阻害することでグルコースの再吸収を防ぎ、そのまま尿として排出しちゃおう!という薬になります。
これまで尿に含まれるグルコースは糖尿病と判断する基準の1つとなっていましたが、この薬は血液中にグルコースが多ければ、尿として排泄すればいいのではないか?という逆転の発想で開発されました。
こうなると、血液中のグルコースが減りすぎてしまうのではないか?と心配してしまう飼い主様もいらっしゃるかもしれませんが、SGLT1から必要分のグルコースは再吸収されるのでご安心ください。

センベルゴを使えない場合

以上のことから、センベルゴは画期的な薬かのように思えるかもしれませんが、全てのネコちゃんに使えるわけではありません。

糖尿病性ケトアシドーシスを発症している猫

糖尿病性ケトン尿症を発症している猫

重度の脱水症状がみられる猫

これらのネコちゃんにはセンベルゴを投与することができません。
また、重度の腎臓病(IRISステージ3および4)の猫では安全性や有効性が確認されていないため注意が必要です。

このようにセンベルゴを投与するにはいくつかの条件・注意点があり、投与できない場合は従来の治療法であるインスリン療法を進めることとなります。

ちなみに、ワンちゃんではインスリンが分泌されない(インスリン欠乏性)ことが原因の糖尿病が多く、インスリン療法を行わないと症状が改善しないため、基本的にセンベルゴは使えません。

さいごに

猫の糖尿病治療における選択肢が増えたことは、ネコちゃんと飼い主様にとって大きな進歩です。
センベルゴは、投薬の手軽さや生活の質(QOL)向上に寄与する可能性がありますが、すべての猫に適応できるわけではありません。治療を始める前には、必ず動物病院での検査と診断、獣医師との相談が必要です。

ご自宅の猫ちゃんの健康状態が気になる方、糖尿病かも?と不安に感じている方は、どうぞお気軽にご相談ください。