はじめに
こんにちは!むらい動物病院です。
ネコちゃんの飼い主様の中には、『猫伝染性腹膜炎』(以下、FIP)という病気をどこかで聞いたことがあるかもしれません。
一昔前だとネコちゃんにとっては致死的かつ不治の病とされていましたが、近年はその状況も少しずつ変わってきました。今回はそのFIPについてご説明したいと思います。
FIPとは
FIPは、猫コロナウイルスが体内で変異することで発症する重篤な病気です。猫コロナウイルス自体は多くの猫が保有しており、多くの場合は無症状か軽症で済むことが多いですが、一部の猫でウイルスが突然変異を起こし、FIPウイルスになると命に関わる深刻な症状を引き起こします。
FIPは主に以下の2つのタイプに分類されます。
・ウェットタイプ(滲出型):お腹や胸に液体がたまるタイプ。進行が早く、急激に悪化することが多い
・ドライタイプ(非滲出型):臓器に炎症やしこりができ、神経症状などがみられる。進行は比較的ゆっくり。
FIPの症状について
FIPの発症は全ての年齢のネコちゃんで認められますが、1歳未満のネコちゃんに最も多発します。
症状としては、両タイプで発熱や元気・食欲の低下、体重減少がみられます。加えて、ウェットタイプでは、腹水や胸水の貯留に伴う腹部膨満や呼吸困難がみられ、ドライタイプでは、肝臓や腎臓の腫大、黄疸、発作や後躯麻痺などの神経症状などがみられます。
しかし、両タイプは完全に区別されるわけではなく、両方の症状がみられることもあります。
FIPの治療法について
現在、FIPが発症した場合に、それを完治させる有効な治療法は確立されていません。
そのため、一昔前までは一度発症してしまうと数週間〜数ヶ月で亡くなってしまうことが多く、悲しい思いをする飼い主様がたくさんいらっしゃいました。
しかし、近年では『GS-441524』(以下、GS製剤)という抗ウイルス薬が開発され、多くのネコちゃんが回復される例が報告されています。
この薬は日本ではまだ動物用医薬品として正式に承認されていませんが、獣医師の管理のもとで個人輸入や臨床研究の形で使用されており、効果は非常に高いとされています。ただし、治療には長期間(通常84日間)かかり、費用も高額になることがあります。


錠剤タイプのGS製剤(左)と注射タイプのGS製剤(右)
さいごに
FIPは今でも命に関わる病気であることに変わりはありませんが、助かる病気になりつつあります。当院では今まで多くのネコちゃんにGS製剤を投与しており、ほとんどが完治しています(残念ながら、再発するネコちゃんもいます)。
FIPは早期発見・早期治療が鍵となりますので、少しでも「おかしいな?」と思ったら、迷わず動物病院を受診してください。愛猫の命を守るために、私たちも全力でサポートいたします。ご不安なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。